科学者の転職記

ポスドクという職業

 相変わらず青少年の家では草刈りや薪割りが続くのである。昼前、一段落ついたので、色々なことを考えながら、グラウンドから事務所へと林の中の小道を歩いていたのだ。鳥のさえずり、爽やかな風。色々と考えが巡って、「そうだ、論文をチェックしないといかんな」とふと頭に浮かんだのである。しかし、そこへ施設の利用者が通りがかり、挨拶をした途端に現実に引き戻された「まだ草刈りは終わってないのだ」。学者は何とまあ贅沢な職業なんだろう、本当にそう思った。去年なら、俺は研究所から歩いて海岸線にあるベンチに寝そべって、潮騒を耳にしながら論文を読んでいたことだろう。あるいは、自分のオフィスにあるカウチに寝そべって、小鳥のさえずりを聞きながら論文を手にしたことだろう。いずれにせよ、まずはエスプレッソの準備からだ…
 俺は今、ポスドク時代より辛い肉体作業を、サラリーマン時代よりもずっと低く、ポスドク時代の半額以下という給料で勤めている。俺はこのまま続けていくと、しばらくして体が壊れ始め、定年前に仕事を失って人の畑で野菜を作りながら細々と短い余生を送ることになるのかもしれないな、そんなことが頭をよぎる。
 ポスドクというのは、学会で出会った教授が言っていたようにやはり好きな事を一番できる職業なんだろうな、そう思う。ただし、その楽しい生活を謳歌しているばかりだと、行く先に待つのはバイト生活だ。ま、今の俺だ。とは言え、精一杯謳歌したからこそ、次の道も真剣に考えられる、とも思うのだ。中途半端に論文を求めて中途半端な職でクビをつなぎ、最もアクティブな年齢を終えてしまっては元も子もあるまい。時代が時代だ。国も企業も研究分野、特に基礎分野に対する出資を絞り続けている最中に、未曾有の大災害が襲った状況だ。公共機関は超天才をきちんと発掘して、それを大切に育てなければならないと思うのである。その他大勢の”熱意ある”科学者は、自分で生き抜くしかない。

 そう、お金は湧いてこない、自分で作るしかないのである。

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